医師の “生の声” から探るアンメットニーズ
~ がん治療のUMNは? ~
最終更新日:2025/07/17

新薬開発において直面する最重要課題「アンメットニーズの的確な把握」。
本事例では、AIを用いて日米の医師から寄せられた「生の声(自由回答テキスト)」から、今回は「がん領域」における開発のヒントを探索した分析事例をご紹介します。
はじめに
新薬開発における重要な指標としてのアンメットニーズ。しかし、選択式の定量調査だけでは、臨床現場の複雑な実態や、医師一人ひとりが抱える課題意識の機微まで捉えることは困難です。本当に価値のあるインサイトは、医師が自らの言葉で綴る“自由回答”の中にこそ眠っているのではないでしょうか。本事例では、AIを用いて膨大な量の「医師の生の声」を解析することで、これまで気づかれていなかった開発のヒントをいかにして見つけ出すのか。がん領域を例に、その具体的なプロセスと、導き出されたインサイトをご紹介します。
分析の概要
- 分析の目的:
- がん領域における新薬開発の方向性を探るため、日米の医師が抱えるアンメットニーズを抽出・比較し、その構造を探索する。
- 分析データ:
- PatientsMapで調査した、がん・悪性腫瘍領域における「新薬を要望する理由や、既存治療への不満や課題」に関する自由回答テキストデータ
(米国: n=2347, 日本: n=7137) - 分析の手法:
- AI(自然言語処理)を用いたトピック分析、および文章要約
分析結果1:マクロ分析
トピック分析で見る、日米医師の課題意識のギャップ
AIによるトピック分析は、一見すると雑多な「新薬が欲しい」という声の集合体を、具体的な複数の課題・要望(トピック)に分解し、ニーズの全体像を構造的に可視化します。これにより、市場全体の大きな潮流を客観的に捉えることが可能となります。今回はこの分析を用いて、日米の医師の課題意識の違いを比較していきます。
以下は、トピック分析で得られた12のトピック別に日米の比較をした結果です。

このグラフから、日米市場の特性を浮き彫りにする重要なポイントが読み取れます。
- “ 日本:「効果の充足」と「治療選択肢」、両方の確保が課題 ”
- 日本の医師は、「効果の向上」と「治療選択肢の拡充」が二大課題であることが分かりました。治療の「質」と「量」の両面での改善が強く求められていることが示唆されます。
- “ 米国:「既存治療を超える質」の追求が最大のテーマ ”
- 米国の医師は、「効果不十分」という一点に集中していることが分かりました。既存の標準治療を凌駕するベネフィットを示すことが重要である可能性が示唆されます。
分析結果2:ミクロ分析
AI要約で探索する、医師の“生の声”の深層
先のトピック分析では、特に米国の医師が「効果不十分」を最大の課題として捉えていることが明らかになりました。では、彼らが口にする「効果不十分」とは、具体的にどのような状況を指し、いかなる改善を求めているのでしょうか。この問いの答えを探るため、AIによる要約分析で、個々の自由回答の深層に迫ります。
以下は、AIが米国の医師の声から導き出したインサイトの要約です。
【 AIによるインサイト要約 】
- “ 既存治療の「壁」と、ブレークスルーへの渇望 ”
- 化学療法・免疫療法の課題: 多くの医師が、転移性・治療抵抗性がんに対する化学療法の限界や、一部の患者にしか効かない免疫療法の課題を指摘。特に、ホルモン抵抗性前立腺がんや高リスク膀胱がん、各種ステージ4の疾患において、より効果的で持続可能な治療が強く求められています。
- “ 個別化医療への期待は「確信医療」* ”
- 遺伝子ターゲット治療の渇望: 脳腫瘍、メラノーマ、乳がん、肝細胞癌など、多くの癌腫で患者の遺伝的特性に基づく個別化医療への期待が非常に高いことが分かりました。単に治療するだけでなく、遺伝子レベルで再発・進行を防ぐ*確実性の高い治療アプローチが、次世代の治療の鍵と認識されています。
- “ 「QOL向上」という、もう一つの重要な軸 ”
- 副作用と利便性の改善: 現行治療は有効であっても副作用が強く、患者のQOLを損なっているケースが少なくありません。痛みの管理や、ポート不要な経口剤への期待は、服薬アドヒアランス向上だけでなく、患者の日常を取り戻すという観点からも極めて重要です。
まとめ
本事例では、医師の自由回答データを「トピック分析(マクロな全体像の把握)」と「AI要約(ミクロな具体ニーズの深掘り)」という、2つのAIアプローチで分析をしました。その結果、国による課題認識の構造的な違いや、個別化医療・QOL向上といった具体的な開発の方向性を、客観的なデータに基づいて明らかにすることができました。PatientsMapのAI分析は、膨大で多様な医師の“生の声”を、客観的かつ多角的に解析し、これまで捉えきれなかった真のアンメットニーズを発掘します。これにより、データに基づいた意思決定を可能にし、新薬開発の成功確度を飛躍的に高めることに貢献します。
- データドリブンな意思決定:
- データに基づき、開発テーマの優先順位を的確に判断する。
- グローバル戦略の最適化:
- 国や市場の特性を深く理解し、実効性の高い戦略を立案する。
- 心に響くメッセージ創造:
- 医師の声を活かし、説得力の高いマーケティングを展開する。
より詳細な分析や、他の疾患領域での事例については、お気軽にお問い合わせください。
貴社の課題に合わせた、より詳細な分析やご提案も可能です。